低い車
社会人1年目から乗っていた愛車ゴルフ号が廃車となり、我が家は新たな車が必要になっていた。
中古車情報をくまなく探して、辿り着いたのは
走行距離12万キロ超の黒いセリカ。車高がやけに低い、明らかに改造車であった。
価格は33万円。PowerBookより安い。

中古車屋の努力によって、車内は新車のように美しく清掃されていたが、
サイドブレーキ後ろのカセット(!)ケースを開けると、そこには
謎の四字熟語の書かれたきらめくステッカーが貼ってあった。

ゴルフ号とは明らかに顔つきも違い、購入した当初はかなりの違和感を感じていたが、
慣れるにしたがってそんなことは気にならなくなり、
むしろ12万キロ走っているとは思えないスムーズな走りに次第に愛着が湧いていった。

何と言っても車高が地面すれすれのため、機械式駐車場でスペースの中央がでっばっているタイプが苦手。
銀座三越では、車の前方を駐車スペースの中央の凸に引っかけ
「ががががっ」
と大不協和音を響かせ、銀座系マダムたちから
「やあーね。。」
と眉をひそめられることにも、すっかり慣れっこになっていた。

そんなセリカ号も、普段は浅草の町にとけ込んでいたのだが、
我が家のマンション探し@おしゃれ系都心地区では、大変浮いた存在だった。
狙っているマンションが無謀なのか、都心の土地柄なのか、モデルルームの駐車場に並んでいるのは外車か国産高級車。
普段はぶいぶい言わせているセリカも、ベンツやジャガーに囲まれて、すっかり借りてきた猫のよう。
困るのが、不動産屋の担当者が駐車場まで見送りに来てくれるときだ。
さっきまでにこやかに話していた彼らがセリカを見るなり、
すこし動きがぎこちなくなるように見えたのは、考えすぎだったのだろうか。
いつもモデルルームから家路につく際、みかちゃんと
「まあ、“堅実なやつ”と好感を持たれているんじゃないか?」
「黒だから、すぐにはどんな車かわからないわよ。」(わかるよ。。)
「33万円だとは、どこにも書いていないしね。」
・・などと慰め合っていた。

長かったマンション探しもいよいよ大詰め。
先日、契約する(であろう)マンションの販売担当者と会った際、
ずっと気になっていた車高についての話をした。
その担当者は、一度も我が家のセリカを見ておらず、
今までこちらも敢えて車を見せないように上品(?)に振る舞っていたのは言うまでもない。
しかし、現実に駐車場を借りる際、車が入らなければどうしようもない。
かといって、新しい車を買える資金があるわけもなく、最悪の場合は廃車である。
追い込まれていた。

「あのー」
「何でしょう?」
「実は大変聞きにくい話なのですが、、車なんです。」
「車がどうかなさいましたか?」
「実は、私どもの乗っている車は大変車高の低い車でして、、」
「とおっしゃいますと?」
「割と、その、“走り”を重視するスポーツタイプの車を中古で買ってしまったものですから、
 車高が普通より、若干、いやかなり低めなんです。。立体駐車場でよく底をすってしまうのですが、
 大丈夫でしょうか?」
担当者は極めて上品に、しかし訳知り顔でにやりと笑った。

「そんなこと、早めにおっしゃっていただければ宜しかったのに。。フェラーリでございますね?
 ご心配はありません。もちろん対応してございます!」
「。。。」


そんな浮世離れした販売担当者のいるマンションは、
みかちゃんの趣味にしたがって選ばれていることは言うまでもない。
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by nekomekuri | 2002-11-03 19:09 | ねこかわいがり
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