雨上がりの夜空に
社会人になった年の秋、車を買った。
車種はVolkswagen GOLF(LTDVersion 黒)。

世の中はバブルがはじけていたが、俺の頭の中ではバブルは終わっていなかった。
ラグビーの試合もないある日曜日、昼過ぎに目が覚めた。
会社の寮に住んでいた俺は、部屋を出て、
寮の目の前にあるグラウンドの方へ目をやった。
とても天気がよく、青い芝生がまぶしかった。

「いい天気だ。。。こんな日は車を買いに行こう。」

学生時代に1年上の先輩から
「会社へ入ったら銀行がカネを貸してくれる。
だから、ローンカードさえ手に入れればカネの心配をすることはない。」
と言われていた。

入社以来、俺の頭の中はまだまだバブルだったので、
夜な夜な飲み歩き、
体に合うスーツがないことをいいことに、オーダーメイドのスーツを作りまくり、
大学のラグビー部の夏合宿に行った時は後輩に財布をポンと渡した。
「好きに使え。」
この年の冬には、さすがに多額の借金に首が回らなくなるのだが、
この時はまだ、予想もしていなかった。(現在も鋭意支払い中)

まずは近くのコンビニに車の雑誌を買いに行った。
「乗るなら外車だな・・・。しかしさすがに新車は買えないよな。」
そう思い、すぐに電車に飛び乗り、高井戸の外車専門中古車ディーラーを訪れた。
まだまだ営業マンとしてぺーぺーだった俺は、
欲しい車を前にして、大した値引き交渉もできずに15分後には車を購入していた。
そいつは目を4つ持っており、黒光りする渋いヤツだった。

学生時代、廃車寸前のボコボコのシティを、「車検代を出すなら、」と
先輩からタダで譲り受け、
人から“ごみ箱に乗っている”と言われながら乗っていた俺にとって
社会人になってよかった、と思える一瞬であった。
当時としては珍しい、CDが10枚入るカーステが自慢だった。

夏は湘南。TUBEのバラードを流しながら夕日に向かって走り、
夜の首都高では新宿の高層ビルを横目に、鈴木雅之が甘く切なく俺を誘った。
秋は京都。紅葉の中、ジョージウィンストンのピアノの調べに身を任せた俺は、
いつしか風になった。
ある晩、突然横浜が恋しくなり、
第3京浜をアクセル全開で飛ばして一発免停をくらった際には、
吉川晃司のメドレーをかけながら大声でshoutしており、
パトカーの存在に気が付かなかった。


そんな俺の愛車とも、かれこれ10年のつき合いになる。
最近では、みかちゃんがルームライトを壊し、
(あれは車が悪い、と本人は言っている。)
夜は大変不便な車となっている。

時には“電動窓開け装置”の機嫌も悪くなる。
高速道路の料金所では、こんな時、黙ってドアを開け、
外に出ていってカネを払う。
料金所のおじさんは、俺のことを随分丁寧な人だと思っているかもしれないが、
単に窓が開かないだけなのだ。

昔は夏の王者だったコイツも、最近ではめっきり夏に弱くなった。
昨年も、大事な客が家に来たとき、「帰りは駅まで送るよ。」と言って
客人を乗せたあと、クーラーのスイッチを入れると熱風が出てきて驚いた。
最初はすぐに冷たくなるものと思い、車を走らせたが、
いつまで経っても温風しか出てこなかった。
客人には真の京都の夏を味わっていただいた。

今でもよく、バッテリーが上がったり、
発車してしばらくはキリキリキリと不穏な音がしたりする。
ガソリンスタンドで軽い検査をしてもらった時には
ブレーキ系統か何かのベルトが切れそうだ、と言われたような気がするが、
現在は夏のボーナスを待っている状態だ。

みかちゃんは、この車を「エコカー」と呼ぶ。
なぜならば、夏は暑く、冬は寒い。
日本車と違って、よく揺れる。
夜はもちろん真っ暗で、モノを探す時は手探りだ。
この車に乗っている限り、太陽と共に活動し、
日没と共に活動力が低下する。
まさに自然と一体になれる環境に優しい車。
エコカーである。
我が家では、一般家庭では初めての
ISO14000番代の取得も視野に入れて日夜活動中である。

だからと言って、買い換えようとは思わない。
我が家に遊びに来たことのある方はご存じのように、
「我が家」とは、「みかちゃんの家」という意味である。
俺に与えられたスペースは、段ボール2つ。
それ以外に俺のニオイのするものはない。
部屋中キティ、ハート、ピンク、、、
ちょっと変わったところで白いピアノくらい。
そんな中、最近まで車だけは治外法権であった。
しかし、このスペースにさえも、キティが進出してきている。

先日、取引先と部下(最近ちょっとだけえらくなり、俺にも部下がついた)を、
車に乗せる機会があった。
それまで真剣にビジネス談義に熱中していた彼らが、
車に乗る際に、ニヤリと笑った。
車の助手席には大きなキティがつるされている。
後部座席にはキティのクッションと、キティのピンクの毛布。
会社では、強面で通っている俺だが、
その日から地位が下がったことは言うまでもない。

みかちゃんは、この車を早く買い換えたいらしい。
というのも、昔つきあっていた彼女がGOLF好きだったことを
ついポロッとしゃべってしまったからだ。

「どうして昔の彼女の好きな車に乗り続けているの?
私の好きな車に買い換えてくれたったいいじゃない。ひどい。。」

別にそんなつもりじゃないんだが、こんな時はぐうの音も出ない。
せいぜい「そのうち、いつかきっと。」と
しどろもどろに答えるしかない。

そんなみかちゃんがお望みの車は確か、
Sクラスベンツ。(推定価格1600万円)
しかし最近は、愛読書の25ansに影響されて、
“少しだけ謙虚なマダム”の振るまいも覚えたらしい。
彼女は言う。

「ジャガーでいいわ。」

2000-6-23
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by nekomekuri | 2001-01-01 00:32 | ねこかわいがり
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