結婚記念日
9回目の結婚記念日。
用意のいい俺は、既に麻布霞町(西麻布)のフレンチレストランを予約していた。

イベントと言えば誕生日と正月くらいしか思いつかない環境で育った俺は、
結婚と同時に「年中イベント」のみかちゃんと暮らすようになり、
最初は、その文化的ギャップに戸惑い、かなりの失敗を繰り返してきた。
特に、記念日のアレンジは、極めて重要である。
実際、ここを滞りなくアレンジできるかで、その後の俺の家庭内地位が
「にゃあちゃん」(猫、ネズミ、魚、、全て同一の呼称)より上か下か決まるため
綿密な計画的行動が必要なのは言うまでもない。

そんなわけで、今日は業務を久々に定時で終え、地下鉄に乗った。
本来は、六本木か広尾で待ち合わせをしたいところだが、電車の乗り継ぎをすると、
みかちゃんが迷う可能性が高いため、敢えて青山一丁目で会うことにする。
約束より30分遅れたころに、ようやく携帯がなった。
「どこ?」
「地下」
「何が見える」
「うーん、黄色い看板」
最小限の情報で、首尾良く地下鉄青山一丁目駅、SUBWAYの前で立っている、彼女を発見。
何とか、タクシーに乗せた。
10分程度で、マンション探しですっかり詳しくなった西麻布に到着し、レストランを探す。
しばらく、うろうろした後、何とか予約した午後8時に店にすべりこんだ。
薄暗い店内奥の狭い階段を上がると、2階は10席程度の広さ。
外苑西通りを見下ろす席が予約されており、ほどなくメニューが配られた。

前菜2品とメインを1品注文し、パインシャーベット入りのシャンパンで乾杯。
いつもなら、演歌調の声で「いやぁー、お疲れ様!」とオヤジ丸出しでビールを飲むサラリーマンまるだしの俺も、
軽くグラスを合わせながら「おめでとう」
とにこやかに笑う。
今日の俺の株価は既に(5円高)と言ったところか。
よく見ると、みかちゃんの小指にはダイヤモンドの指輪が光る。
「ごめん、今日はプレゼントは用意していなくて。。」
「いいのよ、家を買うんだし。。」
極めて、良い会話の流れであった。(買い気配)
しかし、次の質問がいただけなかった。。
「そういえば、指輪って何個買ってあげたっけ?」
「。。たったの5個よ。結婚9年たったのに。どういうことなの?
 しかも、出会ってからを考えたら12年よ。不遇だわ。。」
潮目が急に変わった。まずい、彼女はバブル世代だった。。(売り気配)
「いや。。それは、、、ちょっと貧乏だったし、、それに“出会ってから”って
 そこまで遡ることはないんじゃないか?そもそも。。」
「普通出会って、2回目に会うときは指輪とかプレゼントを持ってくるのが礼儀じゃないの?
 ほんと、常識がないわよね。そういえば、ひろからは何ももらわなかった。ほんと、不遇だわ。」
この場合、何が常識かどうかは議論してはならない。ここは辛抱の時だ。(15円安。)

何とか、一皿めの前菜が出て来て、悪い流れは止まってきた。
旨い。店の選択は正解だ。
みかちゃんの表情もなごむ。(2円高)
「いいわねえ。やっぱり外でいただく料理はこうでなくっちゃ。。」(5円高。)

c0024561_19204990.jpg二皿めの前菜が来た頃には、既にシャンパンは白ワインに変わっていた。(5円高)
彼女の選んだ料理は、白アスパラとホタテを使用した一品。
白アスパラの食べ頃は年に2週間とのこと。
彼女は、これが大のお気に入りで、今日はタイミングが良かったようだ。
「本当おいしいわ。季節なのよね。。」(買い気配)
ここは勝負だ。気の利いた一言が流れを決める。
「結婚記念日は、毎年同じ日なんだから、これから毎年白アスパラが楽しめるね。。」
「ほんとだ!」
彼女は微笑んだ。(10円高)
しかし、予想もしない次の一言がまた流れを変えた。
「でも、どうして9年目なのに、白アスパラを食べた記憶が2回しかないのかしら。。」(売り気配)


そう言えば、結婚して1年間は、給料を家に入れることを俺は忘れていた。
どうやって生きていたのだろうか。
彼女は、家に現金がないことを俺に言い出せずに、独身時代にためた貯金を毎週取り崩していたと聞いている。
彼女の父親は「俺が話をつけてやろうか」と彼女に言ったそうだが、彼女は止めたそうである。(涙)
結婚当時、俺は今は亡きゴルフ号のローンと、バブルに踊ったつけで数百万の負債をかかえ、
とても余裕資金などなかった。そして、確かに家に給料をおいていった記憶はない。。
これはまずいことを思い出された。。
「だいたい、ひろはさあ。。(怒)」(100円安)

c0024561_1921254.jpg今日は、本当に料理に救われる。
メインの仔羊が運ばれてきた。
さっとグラスの赤ワインを注文。(5円高)
この後、食後のチーズを頼み、彼女が気に入ったウオッシュチーズの名前を聞いたりして、
流れを再びもとに戻す。
幸い、料理はどれも非常においしく、かなり彼女も満足の様子。(10円高)
何とか乗り切れそうだ。
店員が食後の飲み物の注文を取りに来た。
「あ、僕はミルクコーヒーね」
俺は流し目で、流れるように注文する。
「それってカフェオレじゃないの?」(30円安)


店を出ると既に夜10時を回っている。
帰りは広尾から地下鉄に乗ろう。
せっかくなので、既にマンションマニアになっていたみかちゃんと、「麻布霞町パーク・マンション」を見学して帰ることにした。
その時、ふと、道ばたで黒い影が動いた。
「ねこだ!」
みかちゃんにとって、猫は極めて重要な生き物である。
猫に会えた日は、すこぶる機嫌が良く、逆に俺が見つけた猫をみかちゃんが見られなかったりすると、
その後、非難ごうごうなのは言うまでもない。
「何で、もっと早く言わないのよ!」
「いや、だって、猫も移動してるからなァ。」
「じゃあ、何でひろが見つける前に言わないのよ。」
「??。どうやって、見つける前に「猫だ!」なんて言えるんだよ」
「そこを何とかするのが、ひろのfunctionじゃないの?」
そんな不毛な会話を避けるためにも、猫を見つけたときはできるだけ早く、その事実を伝達する癖がついていた。
幸い猫は、恵まれた環境にいるのか、少し太っており動きも緩慢であった。
こんな時、俺の動きは一つの原則に従う。

『猫を驚かせないように、猫から離れ、みかちゃんの猫への接近をサポートする』

c0024561_19212341.jpgみかちゃんは、「にゃあ♪」と言いながら猫に接近していく。(5円高)
何やら猫と話をしているようだ。(5円高)
俺は、猫との距離をあけながら、車が来ないか監視の体制になる。
ここは記念撮影だ。
すばやく胸元に隠してあったJ-PHONE SH51を取り出し、記念撮影をする。
後で、見せれば評価はあがること間違い無しである。(20円高)
ニヤリと笑った瞬間に、猫が逃げた。。。(20円安)
「つまんない猫!」(20円安)



霞町パーマンを見た後、今度は10億ションで有名になった米荘閣跡地のマンション建設現場へ。
まだ、3次募集をやっている時期でもあり、建物は建っていなかった。
「しかし、募集ったって買えないよなあ。。」
二人で、ため息をつきながら、建設予定地の壁から中をのぞく。
かなり間抜けな状態で、ぼけっとしていると、道をこちらへ歩いている金持ち風のOLの存在に気づいた。
「変な人たち、、」
そういう感じで横を通り過ぎられた。
これは、間抜けだ。何か取り繕う必要がある。
別に悪いことをしていたわけじゃないのだが、何か気まずい感じがした。
ここで、日頃の営業の成果を出す時である。
機転を利かして、大きな声でこう言ってみた。

「あーあ、早く入居したいよね。。」
そのOLはぴくりともせず、そのまま歩いていった。(50円安)


結局、地下鉄を乗り継ぎ、浅草についたのは夜の0時すぎ。
料理は満足だったとのことで、全般的には良い結婚記念日だったようだ。
俺も自分の良いアレンジに気を良くしており、仲良く話をしながら、
二人はマンション一階のコンビニの前まで辿り着いた。
結構、料理のボリュームもあったので、彼女は満足であろう。
いつも、家に帰る前にコンビニで何か物色するのが常であるが、
今日はいいかな?そう思って、彼女に聞いてみた。

「今日は、寄らなくていいかな?」
「うん。。いいや」
「そうか、じゃ帰ろう」

そのまま、マンションの入り口まで歩いていった。
彼女は寂しそうに、こうつぶやいた。
「結婚9年目にもなると、プリンも買ってくれないのね。。」
そこで、俺は酔っぱらって言いたいことを言えるようになった時、みかちゃんが言っていた言葉を思い出した。


「プリンを食べたくない時なんてないのよ、本当は。。」
(ストップ安)

結婚10周年を来年に控え、俺の株価対策はまだまだつづく。
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by nekomekuri | 2003-06-05 19:19 | ねこかわいがり
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