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紙一重
それはまだ、みかちゃんが結婚する前のこと。
某音楽教室の講師として、毎日忙しく飛び回っているころだった。
中学時代の友人が名古屋で結婚式をあげるというので
前日の夕方、2人で新幹線に乗り込んだ。

披露宴でBGMのピアノ演奏を引き受けていたのだが
ホテルで楽譜をひっぱりだして、どの場面でどの曲を弾くか
2人で確認していた。
しばらくピアノから離れていたし、長女を妊娠中で時間もあったので
多少は練習していった私とは違って
みかちゃんは(彼女にとって特に練習を必要とするほどの曲はなかったが)
そんな時間もとれないほど、忙しかったらしい。
そういえば新幹線の中でも「朝からろくに食べてないのよー。」といいつつ
私が残り物で作っていったお弁当を食べていたっけ。

「花束贈呈のところは、、あ、これね『秋桜(コスモス)』。ふんふん、、。」
と、楽譜を見ながら、まるでそこに鍵盤があるかのように指が机をたたく。
相変わらずうまいよなー、当たり前か、これで商売してんだから、と
たわいもないことを考えながら、その音を聞いていた。
ん?
『秋桜』だよね、これ。
あの山口百恵が歌い、作詞作曲をしたさだまさしも
自身で歌ってヒットした、あの有名な曲。
嫁いでゆく花嫁が両親に花束を渡す、感動的な場面にぴったりな
しっとりとした曲、、。
の、はずなんだけど。

みかちゃんの指がたたき出す音は、しっとりというよりも
軽快に、さながらマーチのように部屋に響いている。
「タカタカタン、タカタカタン、タカタカターン、、。」

そんなはずはない。
そりゃ中学のころはああいう風だったけど、
仮にも社会人として、東京で一人暮らしをしてるんだ。
一通りの常識というか、ふつーの人が知ってることは
知ってるようになったはずだ。
でもな、万が一ってことがあるし、大事な結婚式だし、
一応聞くだけ聞いておこう。念のためだ。

「ねえ、この曲、今までに聞いたことあるよね。」
『え?知らないよ、ぜーんぜん。なんか違う?楽譜通りに弾いてるんだけど。』

ああ、やっぱり、、。

その後、10分ほどの曲の解説、歌詞の内容、花束贈呈という場面の説明を経て
「秋桜」はやっと、私の知っているそれになった。
もちろん当日の彼女の演奏が素晴らしかったことは言うまでもない。

「天才と◯×は紙一重」
実例なのであろうか。
by nekomekuri | 2001-01-01 00:09 | ねこの手
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